三遠南信地域の昔ばなし

    吉田龍城伝説と三遠南信地域の昔ばなし
豊橋の民話       椀 か せ 岩
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 三河と遠州の国境、今は愛知と静岡の県境に、弓を張ったような山
並みが続き、その南の端に、ひときわ切り立った岩ばかりの山「立
岩」がある。
昔、この山に白いきつねが住んでいた。たびたび里へおりて来ては、村の人にいたずらばかりするので、村は立岩にお稲荷さんを祀って白ぎつねを静めていた。

ある時、白ぎつねが山の上で飛び跳ねて、大きな岩を銀作の田んぼに
落とした。その椀のような岩の上で、銀作は実った稲穂を眺めていた。
「今年も豊作じゃ。苦労のしがいがあったわい。ありがたいことだ。
だが、お前がどいてくれると、もっと米が獲れるものを、じゃまなやつ
だよ」

  「それになあ、困った事ができたわい。稲刈りを終わった日に、おひまちをするのが村の慣わしだ。今年はわしの家の番なのに、二十もの椀がない。どうしたものやら・・・」
そのうちに銀作は心地よい風に吹かれて眠ってしまった。
「銀作、銀作、わたしはお前の田んぼに座っている岩だ。今年もよう働いたな、心配せんでもよいぞ。明日の朝ここへ来るがよい」
涼しげな声がどこからか聞こえてきた。あたりを見たがどうやら
岩の中からのようだ。


「あんまり椀のことばかり考えこんで、夢の中まで出てきたわい」夕日を背にトボトボと家に帰った。あくる朝、あてもないまま、銀作は ふらふらと田んぼへやって来た。ところがどうであろう、つやつやとした 二十の椀が、岩の上に並んでいるではないか。思わず頬をつねった銀作
 

  「なんということだ、夢は正夢だったわい。うれしいのう」
 その夜は手品のように出てきた椀の話で、たいそうにぎやかなおひまちだった。
 つぎの日、銀作は野菊をひと束添えて、岩の上に椀を返し、岩の主にお礼を申し上げた。一夜明けると岩の上の椀は煙のように消えていた。
 村の衆は、この岩を「椀かせ岩」と呼び、一年に一度だけ椀を借りることに決めた。
「椀かせ岩」は今も中原町のはずれに、どっしりと座っている。

 

               
    (文 豊橋の民話を語りつぐ会・写真 張 楊)
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